研究科長メッセージ

研究科長

近年の科学技術(特に情報通信技術)の発展やグローバル化の進展は、急速に経済・社会のルールを変化させ、人々のライフスタイル、社会と人間の在り方、国家間の相互依存関係などに影響をもたらし、地球規模の様々な課題を顕在化させています。国内を見れば、少子高齢化が加速し、地域経済社会は疲弊しつつあります。このような状況では、人間の発達が阻害される可能性、すなわち一人ひとりの人間が潜在的にもつ多様な能力の発現が妨げられることが危惧されます。

私たちには、「人の発達とは何か」「人の発達を支える環境とは何か」という困難な問いと向き合い、より実践的な観点から具体的な解を導くことによって、より善き生(well-being)の実現をめざした「知」の構築が求められていると思います。

人間発達環境学研究科は、この要請に応えるため、2007年4月に設立されました。本研究科は、「ヒューマン・コミュニティ創成研究」という新たな理念を中核に、人間の発達及びそれを支える環境を対象とした発達科学に関する卓越した教育研究を実施することをミッションにしています。具体的には、人間の潜在的能力が開花するプロセスについて教育研究を行うとともに、人間を取り巻く環境について、人間の潜在的能力を開花させる観点から教育研究を行います。「ヒューマン・コミュニティ創成研究」とは、「人間的な社会(ヒューマン・コミュニティ)の創成をめざして、地域社会、行政、企業、市民などと連携しつつ、人間の発達と発達を支える環境について原理的、実践的に研究する活動の総体」を意味します。

本研究科は人間発達専攻と人間環境学専攻から成っています。人間発達専攻は、教育学、心理学、健康科学、体育・スポーツ科学、社会学、芸術学、工学等の領域において、「人間の発達」に係る諸事象を「個人の創造的発達」と「個人の創造的発達を促す関係性」という二つの視点から総合的に捉え教育研究を行います。また、人間環境学専攻は、理学、工学、社会学、経済学、法学、農学、家政学等の領域において、「人間の発達を支える環境」に係る諸事象を「人間の発達を促進し支援する環境要因の解明と開発」という視点から総合的に捉え教育研究を行います。

本研究科の教育研究活動には、次の3つの特色があります。

第一に、学際的・総合的であるという点です。本研究科では、異なる専門分野間の連携や複数分野での協働を通して、複雑化・重層化する人間の発達や環境に係る様々な課題に対し、多面的・総合的・包括的な研究を推進しています。

第二に、実践的・応用的であるという点です。本研究科では、現代社会に生起する様々な問題の解決をめざし、関係者と協働しながら有効な解決方法を開発するアクションリサーチの手法を用いた研究を実施しています。特に研究科附属の発達支援インスティテュートでは、「大学と地域とを結ぶプラットフォーム」として、教育・研究・社会貢献を一体的に進めています。

第三に、国際的であるという点です。本研究科では、海外の大学との学術交流を促進するとともに、海外の学生、研究者、実践家等と課題を共有しながら調査研究や学術交流を進めるスタディツアーを積極的に実施し、教育研究の国際化を推進しています。

人間発達環境学研究科は、一人ひとりの人間のwell-beingの実現をめざし、人間の潜在的能力が開花するプロセスやそれに影響を及ぼす環境について教育研究を行う大学院です。今後の社会において、well-beingが重要な言葉となることは疑う余地はないでしょう。私は、本研究科での教育研究の成果が、期待される未来社会へと導く羅針盤となるものと考えています。みなさんには、柔軟性と受容性をもちながら、持続的かつ包摂的な社会の創成に向けて、私たちとともに、歩んでいただきたいと願っています。

近藤 徳彦 教授
人間発達環境学研究科長