神戸大学大学院人間発達環境学研究科 ヒューマン・コミュニティ創成研究センター(HCセンター)

ヒューマン・コミュニティ創成研究センター(HCセンター)とは

さまざまな組織や個人と連携しながら、人間性にあふれた多層・多元的なコミュニティの創成を目指す研究の遂行

ヒューマン・コミュニティ創成研究センター(以下、HCセンター)とは、神戸大学大学院人間発達環境学研究科に設立された発達支援インスティチュートのもとにあり、これまで研究科で蓄積されてきた研究成果と、地域などですでに展開されている実践との間に、太いパイプをつくっていこうとする組織です。人間の発達支援に関わる活動を行っている地域組織、NPO、NGO、企業、行政、学校等の人々と連携しながら、研究・実践を深め、人間性にあふれた多層・多元的なコミュニティの創成を目指します

HCセンターには8名の専任教員がおり、それぞれ基幹部門を運営しています。8つの基幹部門ではさまざまなプロジェクト研究が展開されており、多様な実践的研究が構成されています。各プロジェクトは、リーダーである専任教員と学内および学外の研究員・協力員が担っています。

また、すでに企業、自治体、学校、NPOなどで活躍中の社会人を対象とした1年制修士課程も設けられています。この過程では、発達支援に関するさらに高度な実践的・専門的な知識や技法のスキルアップを行い、現代的課題に対応した社会的活動に資する人間の育成を目指しています。

アクション・リサーチ ~地域や社会への参画を通して研究する

HCセンターの英語名は、「Action Research Center for Human and Community Development」です。アクション・リサーチとは、地域や社会の実践への参画を通じての研究=「行動を通しての研究」と言える手法です。HCセンターは、このアクション・リサーチの手法により、研究者と実践者のネットワークづくりも進めています。

ヒューマン・コミュニティ創成研究センターの組織と役割

ヒューマン・コミュニティ創成研究センターの組織と役割

各部門について

多文化・子どもコミュニティー支援部門

多様な文化的背景を持つ子どもたちが生きがいを持って暮らすことのできる地域・学校・家庭ネットワークの創造を目指します。
現代に生きる子どもは多様な文化的背景を持っています。全ての子どもが暮らしやすい社会のあり方を考えるための調査・実践研究に取り組んでいます。

地域・学校・家庭をはじめとする社会的決定要因と子どもの育ちに関する調査研究

多文化・子どもコミュニティー支援部門では、子ども個人のライフスタイルのみならず、友人・親子・隣人関係をはじめとする人的資源、学校・地域コミュニ ティといった物的資源、さらにその上位を占める社会制度・経済など、多層的な視座に立って子どもの健康および健全な発育発達を考える調査研究に取り組んでいます。

地域・家庭・学校におけるEducation for Sustainable Developmentの推進

多様な文化的背景を持った子どもの育ちを支える上で、持続可能な開発のための 教育(Education for Sustainable Development, ESD)で求められている価値観 が重要であるとの視座に立ち、地域・家庭・学校におけるESDの推進活動に取り組んでいます。

社会教育・サービスラーニング支援部門

人間が主体的に社会にかかわるボランティア社会の創造を目指します

社会参加・参画のひとつの方法としてのボランティア活動を、人間形成・コミュニティ形成および学習の場として考え、そのあり方や支援方法などについて、学外団体と連携しながら実践・検証します。

ESDボランティアプログラムの開発

ESD(Education for Sustainable Development)プログラム・モデル開発として、「ESDボランティアぼらばん」事業を実施しています。高校生・大学生が主役の事業です。

大船渡ESDプロジェクト

東日本大震災の被災地、岩手県大船渡市赤崎町をフィールドに、小地域再生活性化支援の方法論を教育学的アプローチで研究しています。福祉・人権・環境教育と、地域政治・雇用促進などを総合化する社会教育の役割が主題です。

ESD推進拠点の創造

国連大学から認証されている「RCE兵庫-神戸」 (Regional Centres of Expertise:ESD地域推進拠点) のマネジメントを行っており、ESDの実質化を目的に、セミナーやシンポジウムを企画運営しています。

スタッフ

リーダー
松岡 広路 (専任研究員・教授 人間発達環境学研究科 人間発達専攻 学び系講座)

ジェンダー・コミュニティ支援部門

「ジェンダー問題」や「生きづらさ」について丁寧に考えるコミュニティの創成を目指します

「ジェンダー問題」や「生きづらさ」について、一人一人が日々抱えているさまざまな問題を、ともに考える対話のコミュニティ(一般的に「哲学カフェ」と呼ばれています)を作ります。それらの問題を「マジョリティ」の立場ではなく、むしろ「マイノリティ」の立場に立って考えていこうとする哲学的実践を行います。「生きづらさ」とともに暮らしている姿を現象学的に描き、一人一人の経験を映し出す「質的研究」を行います。多様な側面から一人一人の「語り」の地平を拓き、全ての支援にかかわる営みには欠かせない「生きづらさ」の哲学を探究します。

現場の問いを掘り起こす

社会のさまざまな場所で潜在的に問題となっていることを、社会の中で生きている人々との対話を通して掘り起こし、問いとして考察することに取り組んでいます。例えば、ジェンダーやセクシュアリティの問題をはじめ、医療、介護、福祉、ビジネス、教育、テクノロジー、環境などについて、それらの問題に常に関わっている人々との対話を行う中で「何が問題であるのか」を吟味することを重視します。

障害のあるお子さんと共に生きているお母さんたちの哲学対話

障害者歯科学・臨床哲学(ジェンダー学)・臨床心理学・小児看護学という4領域からの学際的アプローチによって、大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部に通院している障害のあるお子さんとともに暮らしている保護者(主にお母さんたち)の「生きづらさ」を改善することを目的にしています。障害のあるお子さんへの歯科治療に並行して、その親たちと対話をするなかで、その経験や感情を詳細に記述していく臨床哲学的アプローチと、一対一の語りを通じて心の変容を促す心理療法的アプローチを行うことで、親たちの社会的・心理的な状態の理解と支援を促進させます。それは、親たちの愛情や支援なしには生きることの難しい障害のあるお子さんの心身の健康状態、QOLの向上にも寄与できると考えられます。集められた「哲学対話」の語りの質的分析から、障害のあるお子さんとその親への包括的支援に役に立てたいと思います。神戸では、のびやかスペースあーち「居場所づくり」プロジェクトの場所をお借りして、障害のある子どもとともに暮らしているお母さんたちと支援者が一緒に哲学対話を開催しています。

ジェンダー学と臨床哲学の融合―「マイノリティ研究」「生きづらさ研究」推進拠点の創造

格差と排除が蔓延する現代社会において、マイノリティとして生きることの意味とは何なのでしょうか。「マイノリティ研究」「生きづらさ研究」の実践としての哲学対話を、医療・福祉・教育・などの現場において活用するため、国内外の実践を調査しながら、理論や実践方法を確立します。ありまのままの生が否定され、非人間的な状況に置かれているマイノリティにとって、何をどのように改善すれば生きやすくなるのでしょうか。同じ社会を生きる当事者として、「私(たち)はどのとうに生きるのか」という方向性を求め、その問いかけから「マイノリティ研究」と「生きづらさ研究」が生まれました。これら研究推進拠点は、単に専門的知識の提供や学術的なアドバイスにとどまるものではなく、哲学対話によって利用者と実務者(支援者)のニーズをそれぞれに聴き取り、一人一人の「つながる」能力を高め、コミュニティ活動のエンパワメントについて研究を促進していきます。

北欧・北米・英国・オーストラリアの研究者・実務者との連携

ジェンダーの問題を多角的に捉えようとする世界的な動向を踏まえて、主にフェミニズム思想の研究者や表現活動をしている実務者と連携しつつ、具体的な問題(マイノリティやジェンダーに関する研究)に取り組んでいる新しい哲学実践の方法を探究しています。特に、フェミニスト現象学を使って、障害のある女性の生活世界や非言語表現の有用性についての研究を続けています。

スタッフ

リーダー
稲原 美苗 (専任研究員・准教授人間発達環境学研究科 人間発達専攻 学び系講座)

ヘルスプロモーション・健康行動支援部門

健康行動について科学的エビデンスを集積し、集積したエビデンスに基づき健康の維持増進にアプローチするコミュニティの形成を目指します

ヘルスプロモーション・健康行動支援部門では、ヘルスプロモーションの理論的枠組みとされている健康生成モデルに基づいて健康行動を規定している要因について明らかにしています。そして研究の結果、得られた科学的エビデンスに基づいて、学校、自治体、企業等と連携し、健康の維持増進に積極的にアプローチするコミュニティの形成に取り組んでいます。

健康行動促進モデルの構築

これまでの研究から、健康行動はwell-beingに促進され、健康を損ねるような危険行動はwell-beingによって抑制されることを見出してきました。さらにwell-beingはストレスにしなやかに対処する力、レジリエンスを獲得することで向上します。このような個人の内にある力を内的資源とします。そして、レジリエンスはソーシャルサポートなどの社会的要因、つまり外的資源によって規定されることを実証研究で確認してきました。

健康行動促進モデルに基づいた実践

栄養教諭、養護教諭、保健師、管理栄養士などの健康教育の指導者を対象に健康行動促進モデル関する研修を行っています。そして、理論にもとづいて健康行動の変容を支援するスキルの獲得を目指しています。また研修を通じて、学校での健康教育や自治体が行う特定保健指導で活用するための教育プログラムやアセスメントツールの開発を行っています。また、人の健康を取り巻く外的資源として、企業との連携は重要です。そこで、食品関連企業をはじめ健康関連の企業に呼びかけ、自治体での健康政策におけるCSV(Creating Shared Value)*の展開について検討を始めています。

  • CSV (Creating Shared Value):社会の課題を経済的価値の創造に統合すること、Porter ME、2013、加藤訳

グローバル課題としての健康行動

グローバル化を背景に、生活スタイルのグローバル化も進んでいます。このような状況の中、生活習慣が原因となるメタボリックシンドロームや生活習慣病などに関連する健康課題もグローバル課題としてとらえることができます。そこで、海外の研究者とともに異文化研究を行い、健康行動を規定する要因について、より深く複眼的な視点から検討を行っています。

  • 海外の共同研究機関:グラーツ大学、グラーツ医科大学、エトベシュローランド、ドレスデン工科大学

スタッフ

リーダー
加藤 佳子(専任研究員・教授 人間発達環境学研究科 人間発達専攻 こころ系講座)

インクルーシヴ社会支援部門

「社会的排除のない共生社会を目指すプログラムを開発します

インクルーシヴ社会支援部門は、社会的排除のない共生社会とはどのようなものなのか、また、そのような共生社会に少しずつ近づくためにはどのような実践が必要なのか、という課題に取り組んでいます。

「のびやかスペースあーち」の運営と実践的研究

ヒューマン・コミュニティ創成研究センターのサテライト施設である「のびやかスペースあーち」(以下「あーち」)は、神戸市と神戸大学との連携協定に基づき、灘区民ホールの3階に設置されています。インクルーシヴ社会支援部門は、「あーち」の運営を主幹するとともに、「あーち」における実践的研究を実施しています。

よる・あーち
学習支援、子ども食堂、居場所づくりなどを並行して実施する複合プログラムで、毎週1回、夕方から夜にかけて実施しています。多様な年齢や属性の人たちが60名~80名ほど集まり、相互に学び合う場を形成しています。
あーち学習支援
神戸市の委託を受け、毎週1回、「よる・あーち」プログラムの一環として実施しています。学習面、社会性の面で課題をもつ児童・生徒・青年が毎回20名前後参加しています。支援者は学生を中心に構成され、学習支援を契機とした支援者の学びに焦点を置いた取り組みを行っています。地域住民や保護者も支援に加わり、参加型研究のフィールドにもなっています。
あーち子ども食堂〉
神戸市の委託を受け、灘区連合婦人会と連携して実施している事業で、毎週1回、「よる・あーち」プログラムの一環として実施しています。兵庫こども食堂ネットワークに加盟し、その運営への協力も行っています。
あーち居場所づくり
毎週1回、「よる・あーち」プログラムの一環として実施している多様な人びとの間の関わりを促進する実践です。障害のある子どもの十分な参加をテーマとして活動を構成し、さまざまな年齢や属性の人たちが遊びや会話を通してエンパワーしています。「都市型中間施設」概念に基づくモデル開発実践プログラムとしても位置づけています。
あーち博物館
地域文化を創造していく拠点として、博物館の手法のおもしろさを取り入れることをめざして実施しているプログラムであり、国際人間科学部、発達科学部、国際文化学部、人間発達環境学研究科、国際文化学研究科の博物館学芸員課程の学内実習として実施しています。
ドロップイン・サービス(子ども家庭支援部門からの引き継ぎ)
地域子育て支援拠点事業を神戸市との連携によって引き続き実施しました。乳幼児とその保護者が安心して社会的なつながりや活動に関わることができ、また必要に応じて子育てに関する相談をすることができる場です。週5日6時間解説している。「あーち」において利用者の最も多い活動で、さまざまなプログラムの拠点としても機能しています。
子育て相談事業(子ども家庭支援部門からの引き継ぎ)
助産師・保育士の資格を持つ相談員を配置し、保護者からの相談に応じました。また、専門のNPOからも子育て相談に応じることのできるボランティアの派遣を受けました。その他、灘区歯科医師会との連携相談事業(隔月)も行いました。相談内容の多くは、子どもの生活に関すること、発育・発達に関すること、離乳食・幼児食に関すること、育児不安、地域資源に関する相談でした。
〈ペアレンティング・セミナー〉〈赤ちゃんふれあい体験学習〉(子ども家庭支援部門からの引き継ぎ)
ほぼ毎月1回土曜日に開催している神戸市との連携プログラムです。乳児を育てる保護者どうしの交流並びに子育てに関する学習機会を提供しています。また同時に、児童・生徒とのふれあいが乳児とふれあう体験の機会を提供しています。
地域子育て応援プラザ灘・灘区公立保育所との協働実践(子ども家庭支援部門からの引き継ぎ)
灘区内の公立の子育て支援関係施設と連携し、保育士の「あーち」への派遣事業(見守り、相談、親子遊びの実施)、公立・私立保育所の保育士向け研修会、広報活動を行いました。
ビギナーズ交流会(子ども家庭支援部門からの引き継ぎ)
「あーち」を初めて利用する母親を対象としたコネクション・プログラムで、毎月1回実施しています。生後6ヶ月未満の乳児とその母親が毎回10組程度参加し、特に母親のエンパワメントに焦点を当てた取り組みを行っています。
カフェ「アゴラ」
人間発達環境学研究科内に設置された交流スペースであるカフェ「アゴラ」において、知的障害者がサービス提供者として働くモデルを開発することによって、障害者と学生や教職員との対話を通した相互学習機会の創出をめざしています。
セルフアドボカシー支援
知的障害者の自己権利擁護の一環として新聞づくりの支援を行っています。知的障害者の人となりや日々の生活のありようなどを、社会一般に知ってもらうために、知的障害者自身が編集・執筆している媒体の制作を支援しています。

知的障害者と社会資源としての大学

知の世界から最も排除されている知的障害を参照枠組として、社会資源としての大学がもつ人の成長・発達を促す学びを提供する機能を向上させる実践に取り組んでいます。

海外との連携

障害を社会的排除の問題として捉えようとする世界的動向と呼応して、韓国ナザレ大学、ソウル私立知的障碍人福祉館や米国ミネソタ州のセルフアドボカシーグループなどと連携しつつ、障害の問題に取り組む新しい実践的研究の分野や方法を模索しています。特に高等教育機関への障害学生の受け入れや、障害者の表現活動について、実践的な研究を行っています。

スタッフ

リーダー
津田 英二 (専任研究員・教授 人間発達環境学研究科 人間発達専攻 学び系講座)
学内部門研究員
  • 岸本 吉弘 (人間発達環境学研究科 人間発達専攻 表現系講座)
  • 赤木 和重 (人間発達環境学研究科 人間発達専攻 こころ系講座)
  • 吉田 圭吾 (人間発達環境学研究科 人間発達専攻 こころ系講座)
  • 鳥居 深雪 (人間発達環境学研究科 人間発達専攻 こころ系講座)

自然共生地域支援部門

人と自然とが共に生きることができる地域社会を目指します

世界どこでも「地域」には、独特の自然環境があり、私たちは、それらから癒されたり学んだり生かされたりして、多くの恵みを得ています。そうした自然とともにある社会の実現のため、地域の当事者とともに、地域づくり活動をしています。

農村部における自然共生社会の探求

兵庫県篠山市をフィールドに、野生動物との共生、生物多様性保全のため農業や農村景観づくりなどの課題に関するアクション・リサーチを行っています.またその結果をもとにした政策提言にも取り組んでいます。

都市部の登山者と連携したイノシシ調査プロジェクト

六甲山系を中心に登山をする方々の自然と共にある暮らしを探求しつつ、ICT等を用いたイノシシ調査ネットワークの構築をおこなっています。

地域のESD推進拠点の創造

国連大学から認証されている「RCE兵庫-神戸」 (Regional Centres of Expertise:ESD地域推進拠点) のマネジメントを行っており、ESDの実質化を目的に、セミナーやシンポジウムを企画運営しています。

ESD推進を支える学生コーディネーターの組織化

地域のESD推進を支える学生コーディネーターの組織化のプロセスから、大学におけるESDの方法論の開発や、ボランティア・コーディネートの方法論を模索しています。

スタッフ

リーダー
清野 未恵子 (専任研究員・准教授 人間発達環境学研究科 人間発達専攻 学び系講座)
学内部門研究員
源 利文 (人間発達環境学研究科 人間環境学専攻 環境基礎論講座 自然環境論)

各部門・関連施設について

関連情報