音楽文化のトランスボーダー Vol.9 「カタルーニャーモンポウー静寂の調べ」が開催されました(本研究科 大田美佐子教授による報告記事)

2014年から音楽文化史研究室が研究科の学術weeksを中心に展開してきた「音楽文化のトランスボーダー」 
Vol.9となる今回のテーマはカタルーニャの作曲家、フェデリコ・モンポウ。
音楽文化のトランスボーダー Vol.9 「カタルーニャーモンポウー静寂の調べ」【学術Weeks2025】

モンポウは、いわゆるスペイン風の音楽として一般に認識されているファリャ、アルベニス、グラナドスとは異なり、カタルーニャの音楽の魂をミニマルな構成と瞑想的な響きで表現した作曲家」と言われている。モンポウのその独特な音楽世界について、前半は昨年、モンポウの評伝を上梓した音楽学者の椎名亮輔教授に講演して頂き、後半は自らもカタルーニャのアーティストとして、モンポウのスペシャリストでもあるピアニスト、アドルフ・プラ教授にモンポウの初期から1960年代の幅広い作品、組曲をいくつか演奏して頂いた。

椎名教授の講演では、ミロやダリなどカタルーニャを代表する数々の著名なアーティストや、サグラダ・ファミリアで著名なカタルーニャの建築家、ガウディによる「カタルーニャの海に差す光」についての印象的な言葉も紹介された。有名なモンセラート山や豊かな自然、フォークロアの世界と共に、金属和音、モンポウ・サウンドの原点である「鐘」の存在などが指摘され、その音楽の背景に誘われた。続いて行われたプラ教授によるモンポウのピアノ作品の演奏では、「モダニズム」の先鋭的で構築的な世界観とは異なり、カタルーニャの言葉や民謡、踊りと強く結びついた素朴さと洗練された響きが表裏一体となっている、その独特な、あたたかみのある音楽が展開された。

プラ教授はプログラムを演奏し終えると、金属和音など、不協和と協和の両方が「対立するもの」としてでなく緩やかに往来するモンポウのサウンドについて、表情豊かに英語で説明しながら、いくつかの例を演奏して示してくれた。そのサウンドの絶妙なバランスを体感することで、冒頭に椎名教授が引用したガウディの「美徳はものの中心にある。地中海とは陸地の中央にあることを意味する。その海岸には平均的な光、45度の光が注いでいる。これは肉体をくっきりと浮き上がらせ、その形をあらわにするために最良の角度だ。そのバランスのとれた光のおかげで偉大な芸術的な文化がそこで栄えた。それは強すぎもせず、弱すぎもしない光だ」という言葉も、あらためて腑に落ちた。

プラ教授はまた、モンポウが幼い頃の体験から魂、内面を重視し、東洋の哲学にも強く惹かれていたと指摘する。可視化され、わかりやすい世界が重んじられるなかで、不可視だが確かに存在するものを共に体感して味わうことの意味は大きい。カタルーニャの文化をモンポウを通して知ることで、聴くことは哲学と交わり、東洋と西洋のトランスボーダーな世界も見えてくる。

当日は音楽文化史の受講生を中心に、院生やカタルーニャ音楽に関心のある一般の観客など、60名ほどの聴衆が参加した。参加者の学生からは、「音楽を実際に聴くことの重要性をあらためて感じた。モンポウの音楽における余韻の大切さや音の持つ力は、アドルフ・プラ先生の演奏を聴かないと感じられなかったものだと思う。また、椎名先生の講演の中で学んだ新たな知識も、実際に演奏を聴くことで初めて実感を伴って理解できた。音楽は知識として知るだけではなく、体験することで初めて自分の中に深く届くものになる」といった感想が寄せられた。

(文責: 大田 美佐子)

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