「音楽文化のトランスボーダー」特別編が開催されました(本研究科 大田美佐子教授による報告記事)

 

2014年から音楽文化史研究室が研究科の学術weeksを中心に展開してきた「音楽文化のトランスボーダー」シリーズの特別編として、ミュンヘン出身のトランペット奏者 Matthias Lindermayrとミュンヘン在住で、ヨーロッパを拠点に活躍するピアニスト大田麻佐子とのDUOによる自由な形式のレクチャーコンサートが行われた。シアトリカルアート論の受講生を中心に、院生や音楽研究者など70名超の聴衆が参加した。今回のレクチャーコンサートでは、2022年にSQUAMAレーベルよりリリースされ、ドイツのジャズ界でも高い評価を受けたDUOのファーストアルバム「Mmmmh んーま」からの作品「オリの風船」、12音列を使った作品「Tolv」、作品の核を展開していく即興のあり方、全くフリーの即興、と様々なアプローチの音楽を演奏し、合間に受講生から寄せられた質問を中心にトークが展開された。

ジャズの分野を中心に活躍している音楽家、Matthias Lindermayr。ドイツ在住35年を超え、楽譜のあるクラシックや現代音楽の初演、身体表現や美術、映像など他の分野との協働に展開しているピアニスト、大田麻佐子。一見、世代や文化的バックグラウンド、様々な相違点のある二人の音楽が生み出される現場は、ドイツの批評家ヨルク・コンラートの言葉「依存的な関係でなく、むしろ、緊張感と集中力に満ちて、それぞれが創造的でありつつ一体となること。音楽だから生み出せるコミュニケーションのハプニング」を実感するものだった。

ジャンルとは何なのか? ひとくちに「JAZZ」「クラシック」「現代音楽」と言っても、演奏家にとってその意識は様々で、受け止める側の「ジャンル」の意識が時に柔軟な感性を硬直させ、作品の背後にある広大な音の世界と演奏家、聴衆との相互作用への意識が置き去りにされてしまう危険性もある。ジャンルをクロスオーバーする音楽批評の課題も大きい。受講生からのフィードバックでは、「もっと自由に軽やかに音楽に向き合いたいが、二人の即興演奏の自由なあり方とトークを聴き、音そのものに純粋に向き合う希望と勇気を与えてもらった」という主旨の意見が多くみられた。

(文責: 大田 美佐子)

 

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