研究道場特別講義 報告

「開発途上国における理科教育支援研究の現状と課題」報告

講師
清水欽也(広島大学大学院国際協力研究科教授)
日時
2016年6月14日(火)13:20~14:50
会場
発達科学部 B212(B棟2階)
報告
本講演では,ザンビアとカンボジアの学校現場を事例に,発展途上国における科学教育の課題と教育支援について取り扱われた。途上国の子どもは,データ処理能力や論理的思考力等に課題を抱えている傾向にあるという。なぜなら,国内の政情不安から,経験豊富な教師や教育教材が不足し,実験はほとんど行われず,子どもは教科書に書いている解法を丸暗記しているからだ。このような現状に対し,講師の先生は現地の教員とともに,ココナッツなど現地でも入手できる教材を利用して,授業実践を行っている。その際に,発問をきっかけに観察や実験を通じて,物事を検証を行う日本の探究型の授業が有効であるという。
本講演を通じて,筆者は,自分の研究と途上国の教育支援の関連性を認識し,視野を広げることができた。筆者は,これまでフィリピンやフィジーにおいて学校現場を見学したことがある。これらの国も,使い古された教科書を暗記する教育が行われていた。現在は,日本の教育現場で,探究型の教材開発の研究に取り組んでいる。本講演にて,途上国とは関係ないと思っていた日本の自分の研究分野の関係を捉え直し,新しい可能性を考える機会となった。(人間発達専攻 M1 田中維)

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「自治体における発達支援のためのシステムづくり ―生まれてから大人になるまで一貫した取り組みを目指して―」報告

講師
中村 順子(草津市発達支援センター)
日時
2016年6月23日(木)10:40~12:10
会場
発達科学部 B202(B棟2階)
報告
本講演では,自治体における発達支援がどのようなシステムのもとで,何を目指して取り組まれているのかについて,草津市立発達支援センター前所長であり現在も職員として現場で活躍されておられる中村順子氏にお話しいただいた。
草津市立発達支援センターでは,地域における発達支援の拠点として,乳幼児期から成人期までの障害及び障害の疑いのある方々への支援を実施している。同センターは大きく2つの業務を行っており,一つは通所支援の療育「湖の子園」,もう一つは園所・学校等の訪問や来所による相談を行う相談支援である。支援対象者の発達段階に即した支援を行うため,保育士や発達相談員,教諭,社会福祉士,嘱託医など様々な専門スタッフが在籍し,こどもから大人まで必要な時期に必要な支援がスタートできること,また支援が途切れることなく継続できることが目指されている。
「途切れない」支援のお話は特に印象的であり,また非常に重要な視点であると考える。草津市では発達支援センターのみならず,乳幼児期の支援を担当する健康増進課や幼児課,学齢期以降を担当する学校教育課等,複数の市役所の課が連携し発達支援を行っているという。それぞれの部署での支援が充足されたとしても,ひとつひとつが独立していては,利用者は安心して支援を受けることはできないであろう。生まれてからこれまでどのような生活をおくり,どのような支援を受けてきたのかということを各機関が連携し十分に把握することによって,より丁寧で細やかな継続的支援が可能となることに改めて気付くことができた。(人間発達専攻 M1 山野悦子)

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「心理学研究法について思うこと,あれこれ」報告

講師
吉田 寿夫(関西学院大学社会学部教授)
日時
2016年6月27日(月)17:00~19:00
会場
発達科学部 大会議室(A棟2階)
報告
本講義では,日本の社会心理学・教育心理学を代表する研究者の1人である吉田寿夫先生をお招きして,心理学研究法についてのご講義をいただいた。科学的方法に基づく研究の多くにおいては,統計的手法を用いたデータ分析が使用されている。統計解析を駆使する能力は,研究上の主張を支える証拠を示すために,研究者にとって重要なものである。吉田先生には,心理学研究法における統計解析の基礎的な理解に関する内容について,非常に丁寧なご解説を伺った。講義の全体を通して,業界内に蔓延する十分な理解を伴わない統計解析の濫用が問題意識として掲げられていた。統計解析においては,帰無仮説・サンプルの設定,データ収集の手法,検定法の選定に慎重になる必要がある。しかしながら,統計解析を便利なツールとして用いるあまり,多くの研究ではこれらの手続きが不十分であるというお話を伺い,耳が痛くなる思いであった。吉田先生による各検定法や統計用語の数学的な説明を受けて,自身の研究においても,データ解析として統計的手法を用いているが,先行する研究やSPSS解説本の手法を無批判に受け入れているということに今更気づかされたためであった。また,プリ・ポストデザインにおけるプリテストデータの扱いや,人間の心理という構成概念を研究対象とする場合の留意点,特に妥当性の検証方法など,研究計画の設計に深く関わるお話を伺った。科学的な研究者を志す大学院生にとって,基礎的な統計の理解・運用,研究デザインのための背景知識は必須なものである。その足元をしっかりと築くためにも,統計解析に関する勉強を日々行なっていかなければならないと痛感した。吉田先生のご講義を拝聴して,研究活動のための基礎の重要性を再認識することができた。(人間発達専攻 D2 江草遼平)

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「障がい青年の自分づくり~福祉事業型『専攻科』エコールKOBEの挑戦~」報告

講師
河南 勝(エコールKOBE 学園長)ほか
日時
2016年6月30日(木)10:40~12:10
会場
発達科学部 B202(B棟2階)
報告
本講演は,エコールKOBEと神戸大学とのキャンパス交流として行われた。
エコールKOBEは,高等部(高校)を卒業した知的障害の青年の「もっと学びたい」という願いに応える学びの場である。福祉の制度(障害者総合支援法に基づく自立訓練事業)を利用し,2年間の短大のようなイメージの「専攻科」を実現している。
エコールKOBE学園長の河南先生のお話に引き続き,エコールKOBEの学生たちが,学園で行っている活動について,パワーポイントやポスター形式で発表を行った。自分の興味関心について年間を通して調べる研究ゼミや,献立決めから決算まで行う調理実習,えこーる新喜劇やツリーイング,銀行の利用,学生自治会,土曜日活動,卒業旅行など多彩な活動が紹介された。次に,2名の学生が研究ゼミでの成果を発表し,自分の研究のおもしろさに聴衆を引き込んだ。放送作家の砂川氏が協力する「えこーる新喜劇」は,「チームワーク」と「思いやり」がキーワードということで,学生たちが相談して配役を決めるところから全部見せていただき,味のある掛け合いに楽しい笑いがこぼれた。最後は,エコールKOBEの学生たちが声を合わせ,学園歌を披露した。あっという間の90分であった。
全体を通して,エコールKOBEの学生たちのいきいきとした姿が印象的であった。様々な体験の中で,自分で考え,自分のことばで伝え,受けとめ合う仲間がいる。「主体的に学ぶ」「豊かな体験」「仲間とともに」を3つの目標に掲げるエコールKOBEで,学生たちは,かけがえのない学びを,かけがえのない体験を,かけがえのない仲間とともにしていると感じた。エコールKOBEに関わる方々の熱意が,そして,生き生きと活動する青年たちの姿が,知的障害の青年たちに学びの場を保障する制度の改革に結びつく,確実な一歩になっていると思った。(人間発達専攻 研究生 前田貴世)

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「自治体における子ども・青年の発達支援~猪名川町における試み~」報告

講師
太田 はるよ(猪名川町青少年健全育成会議会長)
日時
2016年7月7日(木)10:40~12:10
会場
発達科学部 B202(B棟2階)
報告
本講演では,自治体における子ども・青年の発達支援として,兵庫県の猪名川町青少年健全育成会議(以下,「青推会」と略す)で行われている取り組みについて報告された。青推会は,SWING-BYという青少年の対象の団体を内部組織とし,青少年たちと共に活動を行っている。SWING-BYの活動は,地域活性化のための「清掃活動」や「挨拶運動」,地域の夏祭りや行事の「ボランティアスタッフ」,「福祉施設訪問」,さらに若者の社会貢献の場としてスマホをはじめとした青少年のネットリテラシー向上に向け,町内の子どもたち等への「啓発活動」を公的機関や民間事業者と連携しながら町内外で実施するなど多岐にわたるものとなっている。これらの活動は,企画・運営の段階から子どもたち主体で進められており,それは,その活動自体が成功するかではなく,それまでの準備期間等過程を大切にするということが重要視されている。それと同時に,子どもたちに「考動力」,「向動力」,「交動力」を身につけてもらうために,大人たちの見守るという姿勢も印象的であった。また,発達段階ごとの子どもたちの現状についても,子どもたちが取り巻く環境についてイメージしやすく,その中での課題をどのようにして解決していかなければならないのか考えていかなければならないと痛感した。さらに,このシステムは子どもの発達を重要視しているとともに,その支援を行う側が行政だけでなく地域も加わっっている点に,非常に意義のあるものであるといえ,今後さらに注目すべき取り組みであると感じた。(人間発達専攻 M2 下木なつみ)

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「人間発達研究の創出と展開~発達保障実践を拓くために~」報告

講師
中村 隆一(立命館大学教授/人間発達研究所所長)
日時
2016年8月27日(土)13:30~16:30
会場
神戸大学附属特別支援学校 「生活訓練棟」
報告
本講演は,知的障害のある人の発達について,精神薄弱児を人間として見るというのは,どんなことだろうかと,私たちに問いかけるものであったと思う。「一次元の世界」に住む子どもたちを,我々はどう導いたらよいのだろうか。単調な行動の毎日をできるだけふくらませ,次々に変わる環境の中で,それを豊かに伸ばすために,施設の先生方が日々努力されている様子が,ひしひしと伝わってくる。精神薄弱児とレッテルをはられた子どもたちには,一体どんな未来がまっているのだろうか。われわれ正常者とよばれるものの社会は,その未来を用意するために,どれほど成長しただろうかと,我々に問いかけ,大きな問題を提起していると思う。無限の可能性を秘めた子どもたちの,毎年三月の卒業式については,深く考えさせられた。12才になったきよしくんも,小学校卒業の免状をもらうことになったのである。それが,どんな意味があるのだろうか。きよしくんにとっては,こんな紙きれでピリオドがうてるわけはないのである。この卒業証書は,精神薄弱児も人間として成長していく,その事実を証明するものであろうか。卒業式の翌日,子どもたちは,前の日とすこしも変わらない歩行訓練に出るのである。彼らは,一瞬も休まずに発達し,進歩しようとしている。だからこそ,人間なのだ。この子どもたちが,自分の全身で,われわれ正常者に訴えかけていると痛感した。糸賀一雄の「この子らを世の光に」の意味を,われわれはもう一度深く考えてみる必要があるのではないだろうか。中村隆一先生の講演で,糸賀一雄が「福祉の思想」の中で述べている言葉が,今の時代において,さらに重要なことではないかと思った。「特に理解されることの困難であった精神薄弱児については,社会的にさまざまな偏見が根をはっていたのであって,それがこの教育の進展を阻み,長いあいだの暗黒時代を経験させてもいたのである。偏見といえば,人間の社会は,いつの時代でも,偏見からまぬがれたことはなかったであろう。偏見は常識の形をとって庶民の生活の中に深く浸透してくる。」「精神薄弱といわれる子どもたち,生ける屍といわれてきた重症心身障害児たち,人類のありとあらゆる欠陥を身に背負わされてうまれてきた人びととともに,施設の人びとは,共感し,協同し,自分の限りある生命をその仕事にうちこむのである。そのことに生きがいを見出す。そのことによって,施設におくりこまれてきた人びとも,絶望から立ちなおり,はじめて生きがいを見出すのである。障害や欠陥があるからといって,つまはじきする社会を変革しなければならない。しかし変革は突然にやってくるのではない。社会のあらゆる分野で,人びとの生活の中で,その考えや思想が吟味されねばならない。それは人権として法律的な保護をする以前のものである。共感と連帯の生活感情に裏づけられていなければならないものである。」糸賀一雄のこれらの言葉の中にあるように,ひとりひとりの個人を尊重し,おたがいの生命と自由を大切にすることの意味を,中村隆一先生は,講演の中で述べられていると思った。(人間発達環境学研究科 研究生 名村洋子)

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「次期教育課程において求められる統計指導について ~アクティブ・ラーニングに応えられる教材・授業展開~」報告

講師
青山 和裕(愛知教育大学准教授)
日時
2016年9月20日(火)15:10〜16:40
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本日のセミナーでは,「次期教育課程における統計に関する指導内容について」という題で,愛知教育大学の青山先生にご講演いただいた。
日本においては現在,ゆとり教育や知識詰め込み型教育への反省から,教育課程が大きく見直されている。これによる学習指導要領の改定に伴い,子ども達が未知の問題に対処し解決していく能力などを育てるために,アクティブ・ラーニングなどの導入がはじまっている。このアクティブ・ラーニングの一環として,算数及び数学教育に教育内容として3年前から導入されている「統計」に関する内容をご紹介いただいた。
アクティブ・ラーニングの視点から統計を捉えた時に,統計を学ぶ意義として,実社会で生活していく中で様々な形で統計資料を目にする機会がある,といったことが挙げられる。新聞や報道番組で目にする社会調査,企業の商品広告から,交通事故の都道府県別発生件数など,統計資料は我々の周囲に溢れている。膨大な一次資料のデータを,我々が理解しやすいように整頓された統計資料は,まさに百聞は一見にしかず,我々に瞬時に情報を伝えてくれる。しかしながら統計資料は,わかりやすく正確な情報を伝えるだけでなく,時に魅せ方一つで人を欺くようなこともある。そのようなことが新聞やニュースでも平気で行われる現代において,目の前に出されたデータが信用に値するかどうか,そしてそれが実生活においてどんな意味を持つのかを,学校現場において育むことが求められている。
今回の講演の中でも,ワークショップの形で,実際に中学生が体験しているような,データカードを用いたアクティブ・ラーニングを体験した。統計資料が魅せ方一つであるように,算数・数学の授業も単純作業・暗記作業ではなく,授業の方法一つで子ども達にこういった社会で求められている・必要である力を伸ばすことができると考える。(人間発達専攻 M1 森大地)

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「能力の社会的構成と相互行為分析 」報告

講師
鈴木 栄幸(茨城大学人文学部・教授)
日時
2016年10月18日(火)15:10~16:40
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本講義では,教育工学,認知科学,CSCL分野でご活躍されている鈴木栄幸先生をお招きし,「学習の社会的構成と相互行為分析」というタイトルでエスノメソドロジーに関するご講義をいただいた。エスノメソドロジーはH.ガーフィンケルが提唱した社会学における研究手法であり,相互行為分析がその中心的な役割を担っている。相互行為分析とは,社会の中で他者とのやり取りを通して,発話の「意味」を協同的に作り上げていく過程である。講義においては,まず相互行為分析の理論的なベースについてのご説明を頂いた。そこでは,協同的な構成物(ここでは主に会話)を分析する際に主要な手がかりとなる,文脈依存性,相互反映性,継起性の3つの主要概念についてのレクチャーを受けた。興味深いのは,時系列的に前にある発話の意味が,直後,時にはずっと後の会話によって定義されることであり,会話の達成は相互交渉によってのみ成立することである。説明に使用された事例では,看護婦と患者のやり取りの中で看護に関する問題が存在する,しないということが,「看護婦が発見して判断する」ものではなく看護婦と患者が会話やその他のリソースを用いて「協同的に問題を発見する,あるいはしない」ということが紹介されていた。理論についての講義の後には,アクティブラーニングのかたちをとって,実際に会話の事例を分析したり,ロールプレイをしながら自分が無意識に行っているリソースの使用(顔を向ける方向や,体の位置など)をビデオで確認する時間をとっていただいた。そのため,エスノメソドロジカルな分析について慣れ親しむことができた。報告者(江草)の研究では,ICT技術を用いた学習支援システムの開発を行っているが,そこでは量的なデータだけでは明らかにできない学習者の変化が存在する。そのため,本講義で受けたレクチャーは,システムと学習者,学習者と学習者,学習者と教授者の相互行為を分析する方法として,大きく得るものがあった。(人間発達専攻 D2 江草遼平)

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「科学教育への学習科学アプローチ:インフォーマル学習環境のデザインとテクノロジーの活用」報告

講師
大浦 弘樹(早稲田大学大学総合研究センター助教)
日時
2016年10月20日(木)17:00~18:30
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本講義では,学習科学,教育工学分野でご活躍されている大浦弘樹先生をお招きし,学習科学アプローチ,インフォーマル研究に関する解説をいただいた。学習科学研究は,多様な専門家からなるコミュニティであり,量的のみならず質的な研究アプローチを重んじて学習を記述する研究である。大浦先生のご講義では,学習科学の理論と研究アプローチに関するお話を,先進的な議論をもとにご説明いただいた。学校外における学習を探索するインフォーマル研究については,学習科学の研究センターLIFE Centerが2005年に発表したThe LIFE Center's Lifelong and Lifewide Diagramによれば,就学段階においても学習者がフォーマル教育に従事している時間は活動時間全体の2割に満たず,インフォーマルな学習環境の重要性が語られている。講義においては,各国の事例を紹介していただき,そのタイプやタイプごとのアプローチの違いを知ることができた。加えて,大浦先生ご自身による研究事例もご紹介頂いた.動物園における学習活動の支援システム開発の研究事例では,動物園内だけでなく家庭においても学習を振り返り,動物に関する知識を定着させる仕組みを考案されるなど,学習を時間的,空間的に連続させる工夫があり大変参考となるお話を伺った。筆者自身の研究では,博物館におけるICT技術を利用した学習支援の方法に関する開発を行っている。学習者の博物館利用をガイドすることで,積極的かつ豊かな博物館体験を支援することを狙いとしているが,システムの評価において博物館利用体験に関する感想や学習成果をどのように学習者から引き出すかが悩みの種であった。大浦先生のご講義を拝聴して,学習科学の研究アプローチに大きなヒントがあることがわかり,自身の研究に関する道筋を得ることができたと感じた。(人間発達専攻D2 江草遼平)

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「科学教育への教育工学的アプローチ:教材開発の事例から」報告

講師
森田 裕介(早稲田大学大学総合研究センター副所長/人間科学学術院准教授)
日時
2016年10月22日(土)14:00~15:30
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本講義では,教育工学,特にICT技術による教育システムの開発や情報メディアの教育利用に関する研究で著名な森田裕介先生を招聘し,教育工学的アプローチによる科学教育研究についてのご講義をいただいた。教育工学は,教育,工学,認知心理学など複数の領域に渡る学際的な分野である。ご講義では,この教育工学における研究の理論から,ICT技術を活用した研究事例を紹介していただいた。教育工学における問題発見の仕組み,研究のアプローチについてのご説明においては,リクワイアメントプルとテクノロジプッシュの2つの研究プロセスに関する解説がなされた。事例紹介では,VR技術を用いた科学的な知識の教授に関する成果と課題について,森田先生ご自身の研究から仔細な分析を頂戴した。興味深かった点として,システム開発者のねらいと学習者のとらえの違いに関するお話を伺い,研究に携わる者として大変勉強になる思いであった。近年加速するテクノロジの発展は,学校教育現場にも着実に浸透している。十数年前までは珍しいものであった学校教育におけるコンピュータの利用やデジタルカメラ,タブレットPCなどのデジタルデバイスの活用や,インターネットを通じた遠隔双方向的ラーニングツールなどについて,現在では積極的な利用が求められている。文部科学省による平成28年6月「「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議」中間まとめにおいても,「21世紀の高度情報化社会に対応し、教育の情報化を進めていくことは喫緊の課題」であることが述べられている。報告者(江草)の研究では,ICT技術を用いてスペシャルニーズに対応した教育メディアの開発研究を行っている。森田先生のご講義を拝聴して,自身の研究プロセスやシステムの改善を目指す研究サイクルを見つめ直すことができた。(人間発達専攻 D2 江草遼平)

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「学校と博物館との連携~『教員のための博物館の日』を事例に~」報告

講師
小川 義和(国立科学博物館附属自然教育園長(兼)博物館等連携推進センター長)
日時
2016年10月27日(木)15:00~16:30
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本研究道場特別講義では,博物館学,サイエンスコミュニケーション研究分野で著名である国立科学博物館の小川義和先生をお招きし,「博物館教育におけるコンセプト創造〜「教員のための博物館の日」は何をもたらしたか〜」という題目でお話を伺った。小川先生のご講義では,博物館の社会的役割から博物館と学校連携の現状と課題について,海外の取り組みや日本の事例を挙げて説明していただいた。博物館教育と学校教育の連携が叫ばれて久しい昨今,博物館と学校の相互理解は未だ充分ではなく,博物館が有効に活用されているとは言いがたい現状である。単発の出前授業や,体験的な活動を中心に要求され,体系的な科学知識に関する博物館の蓄積を活用しきれないケースや,博物館から見ても指導のノウハウが充分でないなど,課題が多くある。博学連携の基本的なコンセプトは,(1)学校の授業などで活用可能な科学的体験学習プログラムの体系的開発,(2)学校と博物館の効果的な連携システムの構築,(3)成果を全国の学校や博物館に普及である。米国の事例では,リエゾンと呼ばれる専従職員が学校と博物館の連携をつなぐ人材として設置されており,知識の伝達・調整・専門家の役割を担っていることが紹介された。このように,博物館と学校を熟知した人材の養成が博学連携の肝である。日本では「教員のための博物館の日」として,学校教員に博物館に親しんでもらう事業を国立科学博物館が中心となって開催している。また,学校と博物館の連携の可能性を博学連携を超えて地域の連携を呼び込むためのコンセプトとして,資源・人材・課題や理念の共有が重要であるとのお話を賜った。筆者は博物館における学習支援システムについて研究を行っている。研究では,主に来館者を対象とした博物館利用ガイドに関するシステムの開発を行っている。本講義を受けて,博物館の役割についての認識が一層深まり,博学連携の視座から自分の研究を見直すことができた。(人間発達専攻 D2 江草遼平)

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「次期学習指導要領における理科教育の課題と展望」報告

講師
山下 修一(千葉大学教育学部教授)
日時
2016年12月7日(水)13:20~14:50
会場
発達科学部 F256(F棟2階)
報告
本セミナーでは,理科教育において授業研究に先端的に取り組んでいる山下修一先生をお招きして,次期学習指導要領における理科教育の課題と展望として,「理科教育におけるアクティブ・ラーニングー次期学習指導要領改定に向けてー」という題目でのご講義をいただいた。山下修一先生は,理科の授業研究における第一人者であり,現在教育界における中心的なトピックとなりつつあるアクティブ・ラーニングについてもその関連研究に長年取り組まれている研究者である。アクティブ・ラーニングとは,「教員による一方公的な講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称」である。ご講演においては,理科の「知識内容の学習を中心とする内容教科」としての特性から,アクティブ・ラーニング導入において検討すべき点についての詳細なご解説を賜った。特に授業づくりにおいて,児童・生徒に「コアとなる知識を獲得させること」,「獲得した知識を適用した説明を促すこと」がポイントになることについて強調され,主体的・共同的な学びの中で学習者の考えが誤った形で終着しないような配慮を,具体的な授業の姿から示していただいた。この講義を通して,理科の授業研究における注目すべきポイントのいくつかについて学ぶことができた。学習者の言語活動を充実させ,かつ,科学的に妥当な解をクラスの中で共有するために,教科内容に関する深い知識とアクティブ・ラーニングを促すための具体的な授業づくりを教師がどのように準備し,実践するかということについて,教育学研究の立場からよく観察していきたい。(人間発達専攻D2 江草遼平)

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「教師教育研究への教育工学的アプローチ」報告

講師
益子典文(岐阜大学総合情報メディアセンター教授)
日時
2017年1月12日(木)17:00~18:30
会場
発達科学部 A427(A棟2階)
報告
本講義を受講して,教育工学の成立からの教師教育へのアプローチについて,研究変遷をお伺いすることができた。教師を技術者として捉え,その技を記述するためのアプローチの変化は,現在の教育工学研究に連なるものであることがわかった。講師の先生が取り組んだ研究例もご紹介頂けたので,教師教育研究への教育工学的アプローチの具体像を知ることができた。その他,研究者としての視点だけでは気づくことができなかった研究上の課題を発見することなど,著者自身のこれからの研究生活の上で大切にすべきマインドを学ぶ機会となった。(人間発達専攻D2 江草遼平)

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「大規模調査に表れた日本の児童・生徒の科学的論述力と次期学習指導要領に求められる理科の学習指導」報告

講師
中山 迅(宮崎大学大学院教育学研究科教授)
日時
2017年1月18日(水)13:20~14:50
会場
発達科学部 F256(F棟2階)
報告
本研究道場では,中山迅先生に日本の理科教育「大規模調査に表れた日本の児童・生徒の科学的論述力と次期学習指導要領に求められる理科の学習指導」というテーマでご講演いただいた。中山先生は,理科教育の改革に長年取り組み,日本科学教育学会の会長を務めるなど,日本の理科教育を牽引する著名な理科教育学の研究者である。学習指導要領は,児童の適切な概念形成のために,その内容や系統性の妥当性だけでなく現在の児童が持つ知識・素朴概念を把握し,調整されていかなければならない。そのため,学習指導要領の改定には,TIMSS,PISA,全国学力・学習状況調査といった大規模調査の結果が大きく影響する。ご講演においては,各学力調査の結果について概説していただき,日本の理科教育における現状の課題を学ぶことができた。特に,児童の理科を学ぶことに対する関心・意欲や意義・有用性に対する認識に関し,改善の傾向は見られるものの,未だ諸外国に比べて低い現状であることについて,中央教育審議会の答申から最新の議論と学習指導要領の改善の方向性に関して深く解説をいただいた。また,2015年の国際調査では,日本の児童・生徒の平均学力は前回に比して向上を見せていることを成果として捉えつつも,長期的な展望を見据えて児童・生徒の理科の学習に対する態度についての議論を深めていくことの重要性もご提案くださった。報告者は,インフォーマルな学習環境における支援の方法についてを研究対象としており,特に博物館において学習者の興味・関心を引き出すICTを用いた支援システムについての研究を行っている。そこでは,学校教育とは違った学習環境の中で戸惑いを見せる児童の姿もよく見ることがあり,課題として考えていた。中山先生のご講演から,児童の学習において児童が科学に関する学びの楽しさや意義深さを感じ,一人ひとりの資質・能力を開花させるための支援の重要性を再認識した。(人間発達専攻D2 江草遼平)

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「『教育の島』を目指す大崎上島:高校魅力化プロジェクト」報告

講師
取釜 宏行(株式会社しまのみらい代表取締役)
円光 歩 (株式会社しまのみらい)
日時
2017年1月26日(木)10:40~12:10
会場
発達科学部 B108(B棟1階)
報告
本講演では,広島県の大崎上島という離島での私塾で,「島キャリ」という子ども向けキャリア教育を提供し,さまざまな学び体験によって「島の担い手」の育成をめざしている取り組みについて報告された。運営についての中心点は,次のようである。島を愛する気持ちと,将来を前向きに生きていける力,大人と子どもが「島キャリ」という新しい学びに関わりながら,子どもたちは もちろん,島全体がたくましく,おもしろく成長していくことの願いを込めて運営されている。さらに,大崎上島ならではのプログラムが展開されているのである。まず,「島キャリ」のシンボルである大崎上島の形をしたデスクのほか,島の特色や歴史を感じられるオリジナリティのある空間がひろがっている。島のおもしろさや,魅力を体験的に学べることができるのである。「島キャリ」の学びの中身をひとことで言うと,「島を担う」を育てる教育なのである。「島キャリ」を通じて,6つの力をどのようにして身につけるかを踏まえて,教育プログラムの内容が考えられている。
[挑む力] 課題に対して果敢に挑戦する力。どのような状況であっても,まずはやってみるという前向き な姿勢。これからの未来を自分の力で切り拓く。
[学ぶ力] 一生学び続ける姿勢。変化の激しい時代の中で,土台となる基礎学力はもちろん,答えのない課題に対して,学びを止めない姿勢。
[見抜く力] 課題を発見し,設定することができる力。自分軸をもとに,表層的ではなく,物事の核心をつく。批判的な物事の見方をして,自分なりの問いを立てることができる。
[伝える力]想いを周りに届ける力。論理的に思考し,筋道を立てて,説明できる。
[生み出す力] ゼロから1を創り出す力。敷かれたレールを走るのではなく,レールを自分で敷く。発想を行動に移し,実現する力。
[描く力]自分自身のありたい姿,暮らしたい地域,つくりたい社会に対する想いをカタチにできる。将来を設計する力,やりたいことや挑戦したいことを周りの人に示す力。
このような教育プログラムのもとで,教育を受けた塾生の次のような声が印象的であった。
「島キャリは僕を大きく変えました。前の夢はサッカー選手でしたが,島キャリを受けた後は,建築業に携われる仕事や,島で自営業をするに変わりました。今まで気がつかなかった島への魅力に気づくことができました。とにかく普通の人はやらないだろうということばかりするので,すごい楽しかったです。ここでの経験は人生のターニングポイントになりました。」
この塾生の声にもあるように,さまざまな学び体験によって,「島の担い手」の育成をめざすという「島キャリ」の大きな願いは,子どもたちの中に深く浸透していっていると,感じた。(人間発達専攻 研究生 名村洋子)

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「Epistemic Cognitionと科学教育のデザイン」報告

講師
望月俊男(専修大学ネットワーク情報学部准教授)
日時
2017年1月27日(金)15:10~16:40
会場
発達科学部 A427(A棟4階)
報告
本講義では,教育工学・学習科学分野で第一線のご活躍をされている望月俊男先生をお招きし,「Epistemic Cognitionと科学教育のデザイン」というタイトルでのご講義をしていただいた。Epistemic Cognitionとは,知識を知ること,知識を生み出すこと,議論を構成することなどの達成に関わる認知であり,情報を評価,判断し統合することも含む高度な認知である。
講義においては,実践研究で用いられているワークブックを用いて,複数の科学的文章を読解して共通する主張・異なる主張をまとめる活動を体験させていただいた。ここでは,架空の病気に対する医療行為における,2人の医師の対立する意見文を読み,彼らが同じ病気に対して同じ薬品を用いた医療行為を行いながらも,その結果について異なった解釈をしている理由や対立点を読み解くワークを行った。
また,このような研究が現在注目を集めている背景について,最新の研究も絡めた解説を拝聴した。現在の高度情報化社会においては,様々な主張や情報を集めて検討し,より良い議論を構成する能力が求められる。それは,多様な意見を許容しつつも,モデルの評価・証拠の評価・方法の評価などから科学的なテクストの評価を行い,妥当な意思決定に至るという高度な能力である。このような議論への参加は今日もはや避けられるものではないが,市民の中ではいまだに科学に関する誤った受容の姿勢があると思われ,多くの社会問題の中でその混乱が見られる。学校教育の中で,これらの能力形成を支援する研究についてもお話しいただき,その重要性について深く考えさせられるものであった。
本講義を受けて,認知に関する最新の議論に触れることができた。これからますますの発展を見せるであろう科学技術社会・高度情報化社会での教育を考える我々,教育学研究者志望の学生にとって,このような議論は大変興味深いものであった。(人間発達専攻 D2 江草遼平)

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