第1回発達支援インスティチュートシンポジウムの開催報告

2018年3月9日(金)9:30~12:00,発達支援インスティチュート主催によるはじめてのシンポジウムが,人間発達環境学研究科大会議室において開催された。学内各種の行事と重なっていたため,参加者はやや少なかったものの,「Well-beingの新たな地平を拓く」をテーマとして,参加者を交えた意義深い議論を展開することができた。

本シンポジウムは,人間発達環境学研究科の研究のこれからの基盤・方向性を,発達支援インスティチュートを構成する4つのセクション(ヒューマン・コミュニティ創成研究センター,心理教育相談室,サイエンスショップ,アクティブエイジング研究センター)が共同して探究することをねらいとするものであった。「本研究科を象徴するWell-beingという考えの枠組みと可能性を探究してほしい」との岡田修一研究科長のあいさつに始まり,小髙直樹教授(研究科副研究科長:当時),松岡広路教授(ヒューマン・コミュニティ創成研究センター副センター長:当時)のコーディネートのもとにシンポジウムが行われた。

まず,各セクションに所属する4氏から,Well-beingと自身の研究関心との関係についてのショートスピーチがあった。増本康平氏(アクティブエイジング研究センター・准教授)からは「心理的well-beingのエイジングパラドックス〜高齢期の幸福に何が重要なのか〜」,相澤直樹氏(心理教育相談室・准教授)からは「心理支援における人のこころのWell-being」と題する基調報告があり,同じ心理学的アプローチではあっても,ターゲットの違いや観点の違いからWell-beingの意味が異なってくることが明らかとなった。また,自然と人間の暮らしの共生を探究する清野未恵子氏(ヒューマン・コミュニティ創成研究センター・准教授)からは「自然共生地域におけるwell-being」,伊藤真之氏(サイエンスショップ・教授)からは「コミュニティにおける科学とwell-being」と題する報告を得た。

一般に,Well-beingは,「個人の権利や自己実現が保障され,身体的,精神的,社会的に良好な状態にあることを意味する概念」(中谷茂一『知恵蔵』2007)とされるが,「権利」「自己実現」「良好」は,いずれも相対的な言葉でしかない。時代・社会によってその内実は異なるし,人によって,年齢・属性・階級によって,求めるものは異なる。あるいは,清野氏が指摘するように,生態系のバランスもWell-beingの質を規定することになる。われわれは,そのような多様かつ包括的な概念としてのWell-beingに新しい研究の基盤を置こうとしている。Well-beingは,多様な研究ベクトルをもつ本研究科のキーワードのひとつになりえるであろう。そのことを確認できたことは,本シンポジウムの成果の一つである。

しかし,参加者からは,さらなる広範かつ多元的な枠組みでの概念検討を求める声もあがった。たとえば,経済学的知見との接合が必要ではないかとの指摘もあり,アマルティア・センの「capability(潜在能力)」とWell-beingの関係も議論のターゲットにすべきとの意見が出た。貧困・開発問題,それを包括する持続可能性に関する問題(Sustainable Development)とWell-beingとの関係も,当然,視野に入れられなくてはならない。Well-beingの主観的・心理的観点と,社会・自然科学が射程とする生態系・社会システム・制度・科学・文化を捉える輻輳的な視角の融合のなかに,Well-beingの地平が拓かれていくことになるのであろう。また,今回,教育学・エンパワメント論を足場とする議論の展開にまで発展できなかったが,Well-beingを実現する主体としての人間の形成プロセスおよびそれを促進する環境・条件・方法についても,研究的な議論が求められる。否,むしろ,この観点での検討が本研究科の中心に位置づけられるべきなのかもしれない。

いずれにせよ,参加者は,「Well-beingの地平を拓く」という学際的な空間において,異なる観点をもった研究者との出会いの面白さを経験することができたのではないか。「点」にすぎない今回の場をさらにつなげていき,「線」を生み出し,やがて面・空間を構築してゆくロマン・可能性を感じてもらえてもらえたのではないだろうか。また,参加者からは,今後は,このような多様な研究者の出会いの場を足掛かりとしながらも,さらに,異質なもの同士の共同研究が継続的に推進できるアクション・仕掛けを整備することも大切である,との意見もあった。いわば,文理融合・学問横断的な「本物の研究・教育」を生み出し継承することについて,学問の府に生かせていただいている人間として,まさに矜持をただすべき,と強く認識させられた時間であった。

(文責:松岡広路

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