高度教員養成セミナー 報告 (第1回~第6回)

第1回 報告


題目
子どもの言葉とその育ちを支える:心理学の成果を現場につなぐアクション・リサーチへ
講演者
辻 弘美 (大阪樟蔭女子大学教授)
会場
発達科学部 高度教員養成プログラム室 F253(F棟2階)
日時
平成26年6月20日(金)17:00~18:30
報告
本講演は,辻先生の研究テーマである,心的状態のバリエーションとその発達に関する調査,絵本にみられる心的状態語の調査,他者理解の心を育む活動プログラム(心的状態語を中心に),プログラムの検証についての解説を通して,アクション・リサーチとはなにかを考えさせられるものであった。発達心理学の研究に関するお話では,幼児の言葉の増加の時期は幼稚園就学以前の2~3歳の時期であることがあげられ,言語の獲得には体験感情が必要なので,2歳から単語を覚えさせるといった安易な早期教育ではなく,使いながら体験的に獲得させる必要があることなどを学んだ。また,アクション・リサーチに関しては,研究と実践,現場と研究者が相互作用的に働き,協働の中で課題を追求し検証していくことが重要であると学んだ。研究の結果をできるだけ早く現場に届けること,よりよい形で現場に届けることが難しいが大切だという意見が多かった。実践の際には,“Evidence based”といわれるように,科学的な根拠があるといえるものを現場に届けることが大切であるということが強調された。実践がよいものだと信じつつもエビデンスを集め,研究を多角的,批判的にとらえ改善すること,わかりやすく適切に提示,還元していくことが大切であると考えさせられた。
本講義を通して,受講者は各自の研究に対する姿勢,アクション・リサーチについての理解を変化,深化させることができたように思える。短い大学院生活の限られた時間の中でも,研究と実践が相互に補い合い,高め合う相互作用的な関係の構築をめざし,自らの研究の中にアクション・リサーチを位置づけていく必要があると感じられた。(船曳優斗)

第2回 報告


題目
空間認識の発達と教育―見取図描画を中心に―
講演者
渡邉 伸樹 (関西学院大学教育学部教授)
会場
発達科学部 A323(A棟3階)
日時
平成26年7月18日(金)17:00~18:30
報告
教育現場の現状として,教師が数学の系統はわかっていても子どもの認識はわかっていないという場合があるが,教師は数学の系統をベースとした子どもの認識を理解することが重要なのである。本セミナーでは,数学の系統をベースとした子どもの認識を理解するとは一体どういうことなのかを子どもの見取図描画を中心にご講義いただいた。
子どもの見取図描画はどのように発達していくのだろうか。立方体の見取図描画には小学校1~6年生の間に4つの段階があるようだ。受講生は,この4つの段階それぞれの特徴を知った上でそれぞれの特徴を手がかりに,実際に子どもが描いた絵を見て,その子どもがどの段階に位置するのかを推測するという活動を行った。さらに,子どもたちが立方体をどのように捉えているかを調査した結果から,子どもたちが立方体の見取図を正しく描けるということと,立方体を正しく見ることができるということは違うということを知った。子どもの描く際の認識と見る際の認識は違うのである。
このような子どもの見取図描画の分析を通して,教師が子どもの認識段階を理解していないと子どもにダブルスタンダードを持たせてしまう恐れさえあるということを学んだ。そうならないためには,やはり教師が子どもの認識に見合った教育をする必要がある。そしてこのことは数学に限らず,教師はそれぞれの教科の系統をベースとして子どもの認識を理解することが重要なのである。(人間発達専攻 M2 中橋 葵)

第3回 報告


題目
発生論的運動学の動感指導の考え方
講演者
三木 四郎 (神戸親和女子大学 発達教育学部 児童教育学科 教授)
会場
発達科学部 A325(A棟3階)
日時
平成26年10月17日(金)17:00~18:30
報告
本セミナーでは,発生論的運動学の観点から,子どもの運動習得および指導の構造を解説いただいた。私たちは運動を行う際に,自身の身体を動かしながら,その動きを感じており,さらに必要に応じてその動きの修正も行っている。発生論的運動学では,その動く感じを「動感」として,内的な視点から運動のコツを意識化,言語化しようとする。特に,動感を意識化することによって,他者と共有することが可能となり,運動の習得や指導の要点を明らかにすることができる。
子どもが動きを習得する過程として,5つの形成位相が存在している。最初にその動きを「やってみたい」と思う原志向位相から始まり,試行錯誤をする中で,コツを掴み,いつでもできるようになった後に,状況に応じて動くことができる自在位相へと到達する。習得の始まりである「やってみたい」という気持ちを引き出すことが大切であり,そのためにも,子どもたちが夢中になれるような遊びやその運動の要素を含んだ運動によって,子ども自身の中に動感を作り出すことが重要である。
運動指導に際しては,子どもが現在どの位相にいるかを把握しながら,順次移行できるように活動や環境を整えていかなければならない。さらに,教員自身がその運動における要素の組合せや系統を理解することによって,子どもの運動において,何が足りず,問題となっているかを常に探し出し,「できる」感じをもてる指導を行っていくことができると考えられる。(人間発達専攻 M2 辰巳純平)

第4回 報告


題目
PISAリテラシーの背景―リテラシー概念の展開を踏まえて―
講演者
樋口 とみ子 (京都教育大学 准教授)
会場
発達科学部 A427(A棟4階)
日時
平成26年11月21日(金)17:00~18:30
報告
本セミナーでは,PISAリテラシーの歴史的展開を踏まえて,その概念についてお話いただいた。まず,日本のPISAの関心が,好意的なものから多様性を圧迫するもの,またPISAの中止を求める声が上がるなどの批判的な側面も指摘もされているという動向を押さえた。
次に,PISAの読解リテラシーについて焦点を当て,OECDが考える機能的リテラシー,批判的リテラシーについて確認した。その後,リテラシー概念の移り変わりを,機能的リテラシーのW.Sグレイ,批判的リテラシーのP.フレイレ,そしてフレイレの主張を発展してく形でH.Aジルーなどの主張を通じてたどった。
最後に,改めてPISAリテラシーには社会を問い直す弱さを指摘し,OECDの展望する「知識経済」を担うために「競争優位」に立つことができる能力としてPISAリテラシーを捉えることが可能であり,フレイレが提起した本来の批判的リテラシーからは乖離した概念となっていることが明らかとなった。そして,今後の課題として,社会の矛盾を読み解くための読解リテラシーを問う問題の必要性を述べ,その為にユネスコの「自由としてのリテラシー」と社会発展の関係を見ていきたいと述べられていた。
受講者の中で顕著だったのは,2点ある。1点目は,セミナーを受けPISAリテラシーのイメージが変わったということ。2点目は,フレイレの提起する課題提起教育つまり「問いを立てる」ことを意識する姿勢である。それぞれの研究分野から批判的リテラシーをそれぞれ意識すること,また教員として子どもに接する時に「問いを立てること」を意識することの難しさを指摘する点も挙げられていた。
セミナーの考察
リテラシーという言葉に馴染みのない人でも,よく分かるように説明していただいた。PISAリテラシーの特徴がこれからの「知識経済」において機能的であることを求めており,社会の矛盾を批判的に読み解くため視点の弱さを挙げておられた。PISAリテラシーを評価していく上で問題の立て方が本当に社会に求められていることなのか考え,これからの社会動向とPISAの今後の出題などを見ていきたい。また,私達自身も教員として「問いを立てて」物事を考える目をもつことの大切さを改めて感じた。(人間発達専攻 M1 佐川てるは)

第5回 報告


題目
国際政治学におけるゲーミング・シミュレーションの活用―教育・研究におけるゲーミング・シミュレーション活用を考える手掛かりとして―
講演者
近藤 敦 (立命館大学 非常勤講師)
会場
発達科学部 A427(A棟4階)
日時
平成26年12月19日(金)17:00~18:30
報告
本セミナーでは,ゲーミング・シミュレーションについて,国際政治学におけるその活用や,教育的活用の展望を踏まえた解説を頂いた。
ゲーミング・シミュレーションの特性として,以下の点が上げられる。まず,社会的な事象を対象として問題発見,問題解決を主たる目的とされることである。不確実な未来を共に探索するためのシナリオが描かれること,そして,複数脳によるコミュニケーションを図ることができることである。すなわち,ゲーミング・シミュレーションは,柔らかな計画の力を育成するものであることがわかる。柔らかな計画の力とは,ある決まりきった法則に従うただ一つの未来を推測し,その未来に向けた働きかけをすることではなく,実現可能性のある未来を複数想定し,そうした不確実な未来や複数の主体の前提とした,世界の総体的理解である。ゲーミング・シミュレーションは,こうした複合的な状況に関する全体的な理解・認識を得るために特に有効であり,複数の未来像への思索を深めるのに役に立つと言えるであろう。今日,学校教育においても知識活用力の育成が求められるようになって久しいが,教育現場におけるゲーミング・シミュレーションの活用は,このような学校教育上の潮流にも沿うものであると考えられる。
また,受講生の感想において,ゲーミング・シミュレーションのもつ,「役割になりきる」,「役割を体験する」という行為に焦点が当てられたものが複数見られた。これらの感想は,演劇教育や幼児教育の観点から,ゲーミング・シミュレーションにおける「なりきる」という行為の教育的効果やその意義について着目したものである。ゲーミング・シミュレーションにおいて,学習者がある役割によって仮想空間を生きることにより,より想像的な教育を行うことが可能であろう。(人間発達専攻 M1 馬場大樹)

第6回 報告


題目
遊びからはじまる演劇やダンス
講演者
ウォーリー木下 (演出家・劇作家)
会場
発達科学部 F164-1 身体表現スタジオ(F棟1階)
日時
平成27年1月16日(金)17:00~18:30
報告
本セミナーでは,ゲーミング・シミュレーションについて,国際政治学におけるその活用や,教育的活用の展望を踏まえた解説を頂いた。
本セミナーでは,演出家のウォーリー木下氏に,演技・演劇とは何か,演劇を使ってどんな発想が出来るのか,という視点から,主にワークショップを通してご講演頂いた。
まず「演じる」と聞いてどんなことが浮かぶかを順に挙げ,出された「台本」「役になる」「嘘・虚構の世界」などのキーワードから,「一つだけ嘘の情報を含んだ自己紹介」,「すべてが嘘の自己紹介」をする活動を行った。その後見ていてどう感じたか意見交換を行い,見ていた受講者からは,「淡々と言うと本当っぽく感じる」「自己紹介している人が,嘘でもその世界観を信じその世界を想像しながら話していると,真実味・リアリティが感じられ,だんだん本当の様に感じてくる」といった意見が挙げられた。。
次に,3人ずつグループに分かれて「3人の意外な共通点を見つける」,さらに半分の3グループが「嘘の共通点での自己紹介」を行い,どのグループが嘘をついていたのかを当てるという活動を行った。グループそれぞれに大胆な設定でありながら,だんだん話に強いリアリティが感じられてきた事が非常に印象的であった。。
最後に,ワークショップ全体を通じての意見交換を行った。「3人グループで行った時の方がやりやすかった」という意見から,これは,1人で虚構の設定を語る場合に比べて,他人と一緒に話す場合の方が,3人が同じ世界観を共有しているから信じやすいのであり,その世界観に見ている人が同化する「他人への共感」「自己と他者との共振」は,演劇の重要な作用のひとつである,とのお話をウォーリー木下氏から頂いた。さらに,「演じる」際に生じる観客と演じ手との間にある壁を演出によって取り除く必要性,また,演劇とは個々のテクニックではなく,他者との関わり・関係性から生まれるものの方が面白いものが生まれる,というお話も頂いた。。
今日の学校教育で「演劇的な活動」というと,台詞を「読む」という事に重点が置かれることが多いように感じる。しかし,このセミナーの活動を通し,「他人への共感」「自己と他者との共振」といった他者との関係性を考えるという視点で演技・演劇という活動を捉えることにより,コミュニケーション・人付き合いについての学びにおいて,子どもたちにより人の存在の大切さについて考えさせる,演劇を通した指導の新たな視点を得ることが出来た。(人間発達専攻 M1 神谷 彩)

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