研究道場特別講義 報告

「人間発達研究の招待─発達臨床からみた発達理論の課題」報告


講演者
中村 隆一 (立命館大学大学院教授,人間発達研究所所長)
日時
平成25年10月23日(水)17:00~18:30
会場
発達科学部 大会議室(A棟2階)
報告
 本講演は『「発達」と「教育」にどう架け橋を構築するか』を中心的なテーマとして,子どもの発達的変化を捉える視点の検討,発達研究における発達の捉え方,そして発達臨床と実践についてお話いただいた。
 講演を通して,子どもの発達的変化を捉える際には「環境因」と「普遍性(内発的な発達)」の関係を捉えることが重要であると学ぶことができた。保育や教育の現場で子どもが発達的変化といえる姿を見せた時,それが子どもの内発的な発達によるものか・保育や教育の成果なのか,どちらと捉えるかで実践のプロセスや結果の記述が大きく変わりうる。発達的変化には,内発的な発達だけでなく環境の作用もあることは明らかとなっているが,「どこが環境の影響を受ける(受けない)のか」に着眼点を定めて,その内実を検証していく必要がある。それによって,影響を受けないところ(普遍性)を明らかにすることができ,一方では環境の影響を受けるところから教育の役割を明らかにすることもできる。こうした視点をもつことが,「発達」と「教育」の両観点から子どもを理解する鍵となるのである。
 また,環境の影響が消失するところがあることに着目すると,それを質的転換期と仮定することで発達の構造の変化を表すことができることを学んだ。田中昌人らはそこから「可逆操作」という概念を仮説構成し,子どもの発達の実態に触れることを可能にした。その概念を用いる発達臨床では,単に「できる-できない」から数値を出すのではなく,発達検査を通して子どもの発達の実態を読み解くことが目指される。また実践においては子どもの目に見える行動だけでなく,発達検査などで読み解いた発達の実態をもとにその子の発達要求から実践を組み立てていく。必ずしも発達検査をする必要はないが,そういった子ども理解のプロセスが,子どもを発達の主体として捉えた上で教育が介入していく際に重要なのだと改めて感じた。(人間発達専攻 M1 早川一穂)

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「博物館の学びの特性と来館者研究」報告


講師
小川 義和 (国立科学博物館/筑波大学客員教授)
日時
平成25年11月20日(水)17:00~18:30
会場
発達科学部 A427(A棟4階)
報告
 近年,学校外教育施設は科学教育の場として注目を集めており,さまざまな教育活動の普及が行われている。しかし,先行研究の結果から,多くの人は教育を目的として,こうした場所に参加していないことがわかっている。このような現状を改善するために,講演者及び筆者らは先端的な研究プロジェクトに取り組んでいる。今回の講義を受けて,現在の博物館での取り組みや,博物館教育の目的が再確認できた。また,さらなる研究を進めるには,現状を把握するために,来館者研究が重要であることがわかった。
 筆者は本プロジェクトでは,動物園での科学教育について担当している。動物園での科学教育は,博物館教育と関連性が深いと考えられる。そのため,博物館で最新の研究をしている研究者やこの講演に参加した学生と意見交流をしたことは,担当分野の研究について改めて考え直す機会となった。(人間発達専攻 M1 山橋知香)

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「体験を増幅する学習支援環境」報告


講師
杉本 雅則(北海道大学大学院教授)
日時
平成25年12月2日(月)17:00~18:30
会場
発達科学部 A548(A棟5階)
報告
 本講演では,テクノロジーを利用した先進的研究について講演いただいた。講演者の展開する研究プロジェクトでは,テクノロジーを用いた学習支援システムが扱われていた。実際の研究事例の紹介によって,その利点を以下のように把握することができた。(1)先進的な学習支援システムによって,学習者による実世界への働きかけを促進することができる。(2)先進的な学習支援システムによって,学習者の体験を増幅させることができる。(3)それらの結果として,学習者の興味・関心の向上や学習対象への理解を促進することができる。
 筆者は現在,講演者が展開する研究プロジェクトにおいて,学習者の野外植物観察を支援するモバイルシステムの評価を担当している。本講演を通して,システムの新規性を明確することの重要性や,客観的な評価データを得るための方略について精査することの重要性について再認識することができた。(人間発達専攻 D1 村津啓太)

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「情報端末一人一台環境は学校教育に何をもたらすか」報告


講師
西森 年寿(大阪大学大学院准教授)
日時
平成25年12月5日(木)15:10~16:40
会場
発達科学部 B210(B棟2階)
報告
 児童・生徒が情報端末を一人一台持つ教室環境を2020年に実現しようというビジョンが唱えられている。本講演では,情報端末一人一台という環境が子どもたちの学習にもたらす可能性と課題についてお話し頂いた。
 今回の講義を通して,情報端末一人一台環境について,児童・生徒間の意見交流が活発になるなどの可能性がある一方で,観察・実験時間の減少への懸念などの課題があることがわかった。筆者は,小学校の理科教育研究に取り組んでいる。理科においては,紙やノートという既存のアナログと情報端末というデジタルをどのように併用すればよいかの教育環境デザインに関する知見を得ることができた。(人間発達専攻 M1 鈴木一正)

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発達研究と現場実践との共創(コラボレーション)―「子どもの心と発達」をつかむ―


講師
西条 昭男(元小学校教員)
熊本 勝重(小学校教員)
日時
平成25年12月14日(土)9:30~17:00
会場
兵庫県学校厚生会館 大会議室
報告
 本講演では,「生活綴方」と「自閉症児」の教育に焦点をあて,それらに精通する教育実践家を講演者に,発達研究者がコラボレートしながら,「子どもの心と発達をつかむ」試みが行われた。
 西條氏の講演では,自身の教育活動を実践者の目線で振り返り,その現場での「生活綴方」実践の報告を受けた。子どもと教育の閉塞的状況下における「生活綴方」の創造的営みとして,希望をキーワードに,(1)つながりあって生きる希望(=孤立化するこどもたちに)(2)表現(ことば)は希望を生み出す(3)子どもに希望を見出す教師の喜びの3点に関して解説いただいた。西條氏の教育実践は,子どもたちに書くことを強要せず,実践を通じて子どもたちの中で表現したいという気持ちを醸成させるので,個人として,また,集団としての子ども一人ひとりの心に入り込む感動的な表現を表出させているのではないだろうか。
 次に,熊本氏の講演では,小学校における自閉症児の言葉や描画,行動を介して,自閉症児の思いや要求を「読みとく」教育実践に関して報告いただいた。「読みとく」ことで感情の交流,感動の共有が始まるのではないか,彼らと一緒の心になることができるのではないかと「読みとく」意義を傾聴した。熊本氏は,自閉症児が見る世界が不安な要素で取り巻かれていると捉える。その不安を取り巻く世界から彼らを切り離すのではなく,安心できる状態を用意する必要性を述べ,それを友人や教師などとの一緒にいたり頼れたりできる人間関係の構築に見出すのである。熊本氏の実践から,大人や教師が子どもの立場に降りていくのではなく,子どもの側に「立って」彼を理解しようと繊細に実践に取り組む教師の姿が窺える。
 本講演の二者から,子どもが自己表現を通じて集団や人間関係のつながりの中で自己を変容しようとする発達可能性を学んだ。そのつながりや環境設定を教師として組織する必要を発達研究の専門性から改めて認識できた。また,「生活綴方」や「自閉症児」の教育実践おける「how」ではなく,「why」を大切にした教育活動であることは重要な点であり,これは発達研究にも示唆を与えるものであると考える。(人間発達専攻 M1 岡本浩太)

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教育実践を対象とした研究方法論:アイデアを授業にして検証するために


講師
村山 功(静岡大学大学院教育学研究科教授)
日時
平成26年1月8日(水)17:00~18:30
会場
発達科学部 高度教員養成プログラム室 F253(F棟2階)
セミナー内容
本講演では,教育実践研究を行う上での留意点についてアイデアを授業にするところから実践し,評価するまでの流れに沿って解説いただいた。
  1. アイデアを授業にする
    アイデアを検証するためには,教育方法のレパートリーが反映された授業計画を行い,教師の力量が反映された実践を行う必要がある。アイデアを検証するためには,それ以外の部分は適切でなければならないので,チームで研究するという選択肢もある。
  2. 仮説を検証する
    仮説検証の基本形は要因統制であるが,教育実践研究の難点として,要因統制が困難なことが挙げられる。しかし,統制群が作れないときでも,仮説の検証は可能である。
  3. データをとる
    データを収集する際の原則は,「分析対象を可視化すること」であり,学習活動と連動したデータとプロセスデータがある。
セミナーの考察
教育実践研究では,どのようなアイデアを中心としているのか,どのような方法で仮説を検証していくのか,そのためには,どのようなデータが必要なのであるか,を常に意識しなければならない。これらを自らの研究にあてはめて明確にすることで,自らの研究における留意点を再認識し,意識づけることができた。今後,研究を進めていく中で,意識すべき点を考えながら,実践研究を行っていきたいと思う。(人間発達専攻 M1 山橋知香)

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